
夢はバルセロナから始まった。
ゆるいカーブを描いて延びるモダンな高架橋にさしかかると、
巨大な船が2隻並ぶピアが至近距離に見えた。
白い客船はぐんぐん大きく迫ってくる。
と、突然ビルが視界を遮り、乗っていたタクシーが止まった。
ターミナルの壁で踊る"BIENVENIDO"
(ウェルカム)の文字。
"CREUERS"は「クルーズ」だろうか。
久々の英語圏外。 スペイン語程度なら、謎解き
(というほど
でもないが)も楽しい。
荷物はポーターに託して、やっと身軽に。
なるべくスマートに、軽量にとの提案も空しく、
ボーイときたら大小5つもの荷物を抱えていたのだ。
ガールの2個と合わせて計7個・・・やれやれ。


外国にしては驚くほどきれいに整ったターミナル内部。
脇のテーブルのレモネードとクッキーに気をそそられたが、
ぐっとこらえて素通りしカウンターへ。
身分証明も兼ねると言うカード式ルームキーを貰う。
バルコニー付きのキャビンにアップグレードさせて
いただきましたので・・・
えっ?
バルコニー?きゃ〜〜〜

なんて幸先いいんでしょ。
入り口と反対側のドアから外へ出ると埠頭だった。
横付けされた船はもう頭上高く聳えている。

船への入り口でID
(身分証明=ルームキー)の提示を求められた。
そこで乗船客データベース用の写真も撮影。
乗下船時にカードをここのスロットに差し込むと、こちらからは
遮られていて見えないが、写真とデータがモニターに
表示される仕組みらしい。
金属探知機と手荷物のX線検査を通過すれば、乗船OK。
独特の狭い通路を目くらめっぽうに突き進み、丁度出現した
ガラス張りのエレベーターで9階へ。
キャビンを探し当てドアを開ける時のわくわく感と言ったら!
カーテン越しに日差しが差し込む明るい部屋は期待を
裏切らなかった。
ドレッサーの上には誰からの差し回しか、或いは手違いなのか
(笑)シャンパンのボトルと果物の盛り合わせ。
真っ先にガラスドアを開けバルコニーをチェックする。
二つ並んだ簡易デッキチェアとテーブル代わりの小さな台。
果てしなく続く海と空だけの空間で、
一人(笑)ゆったり過ごす贅沢にひそかに思いを馳せる。
傍らでボーイは「レセプションデスクへ行かなきゃ」と焦っている。
国内でホテルにチェックインの際、いの一番にするのが
補助器具貸し出しの確認。
10数年前に障害者にも均等な機会を与える
ADA(アメリカ障害者法)が
成立して以来、すっかりレセプションデスク直行の行動パターンが
身に付いてしまっている。
今回は光で伝えるドア・ノッカーや連絡用のポケベルなどを
予約時にリクエストしてあったのが、その後の問い合わせには
フォローのないまま出発日が来た。
サービスは提供していても、実際に実行するかは別。
所によってはリクエスト自体を忘れ去られることもあり、
少なからず気を揉んでいた。
(文末の注1参照)デスクで問い合わせると、すぐに部屋に「パッケージ」が届いた。
これで、非常時はもとより、ボーイが部屋から締め出されても
大丈夫。
(笑)ADA特典はそれだけではない。
今回の旅のハイライトは
手話通訳の派遣にあった。
数ある中からこのクルーズ会社を選んだのは、旅程の魅力も
さながら、情報収集中に偶然目にした「手話通訳を手配」の
一章が大きかった。
「出航60日前までに」の規定よりさらに余裕を持たせて
リクエストを入れてあった。
度々確認の電話を入れて、2週間前に実際の派遣者が決まる事
までは把握していたが、補助器具と同様にクルーズ会社から
連絡が来ることはとうとうなかった。
こちらも「乗船しています」との嬉しい答え。
早速、連絡してもらい5分後には顔合わせ実現。
自己紹介の後は、特殊な共通言語の連帯感もあって
会話が弾む。
良かった〜♪
今日の予定は?
実はさっきチェックインしたばかりで・・・じゃ、また後で連絡くださいね。
二人は私たちの専属なので、いつでも必要な時に連絡すれば
通訳をしてくれるとの話。 と言ってもボーイは通訳など不要だが。
そうそう、明日はニースでのツアーを予約してあるけどすると、
「へ?」
「出航は明日じゃなかった?」
二人して怪訝そうに顔を見合わせるではないか。
はぁ? 今日はバルセロナ停泊? 知らなかった。
(文末の注2参照)滑り出しは上々。
キャビンに戻り、いつの間に密輸?の
(笑)さっきのレモネードと
クッキーを手にくつろぐと、それまでのストレスと苦痛が
薄れる実感。
ここまでの道は決して平坦ではなかった。
SFからフィラデルフィア、さらにミュンヘン経由で遠回り、
気の遠くなるような時間をかけて到着したのも、
前週、ボーイが眼鏡を無くし、町中を駈けずり回った末
やっと間に合うように作ったおニューの眼鏡を最初の便に
置き忘れたのも、
巨大なフィラデルフィア空港での乗り継ぎのストレスで
ボーイが体調を崩し、満席の機内で横にもなれず、仕方なく
床に横たわり、大西洋横断飛行の間、苦しんでいたのも、
ロケーション中心に厳選したバルセロナのホテル予約が
ホテル側の手違いでおじゃんになり、到着するなり
「すみませんが悪しからず」と別の宿に案内されたのも・・・
過酷なメモリーはランチビュッフェをうろつく頃には削除され、
いつしか
ヴァカンスモードに移行していた。

ライフベストを着込んでお決まりの避難訓練
(全員参加)に
足を運んだ後はディナーまでぐっすり眠ったのだった。
注1: アメリカの会社なので、海外であっても法律が適用されると推測。
注2: 通常12泊のところ、今回だけ14泊の特別航海のため、パンフレットの
旅程とは微妙に違っていた。